貿易取引を行うためには、ある3つの知識が必須になります。
また、今後の有望市場についても言及していきますので参考にされてください。
目次
貿易取引の3つの基礎知識
1.貿易実務知識:国際輸送、保険、為替などの貿易のルール
2.国際商品知識:競合する商品と比較ができること
3.国際市場知識:地域によって異なる特性
※参考:貿易実務に必要な周辺知識
貿易関係法・規則、貿易マーケティング、国際条約、貿易条件、国際運輸、運輸保険・貿易保険、通関知識、外国為替と貿易金融、国際与信とクレーム処理、貿易書類とその流れ
どんなスポーツにもルールがあるように、貿易というビジネスにも実務の段階でさまざまなルールが存在します。
貿易取引は国際運輪や保険、外国為替など、広範囲な分野にまたがって行われるため、これらの各分野それぞれを規定するルールをしっかり学ばなければなりません。
貿易取引は、さまざまな戦術や戦略を駆使する高度な知的ゲームとも言えますから、取引を規定するルールを熟知していることは、ゲームに参加するための前提条件となるのです。
国際商品知識を磨いて商品を差別化する
第2に、売買対象に関する国際商品知識が必要です。輸出したり輸入したりする商品の特質(長所と短所)を知り尽くし、競争品との比較をしたうえで、差別化を行うだけの知識が求められます。
まずは自らが取り扱う商品について、価格は高価だが品質はよいとか、他社商品に比べて使いやすいなどと、特質をしっかり分析できるようになることが重要です。
そのうえで、さらに商品のマーケティングについても考える必要があります。
たとえば、輸出品を高級品として売り出すつもりなら、高い品質を持たせて生産量を少なくし、高い価格を付けたうえで、販売する店舗も高級専門店などに絞らなければなりません。
広告でも、高級なイメージを打ち出すための戦略が必要になってくるでしょう。
このように、自社の商品のウリを明確にし、差別化しなければ、競争力を持った商品で大きな利益を上げることはできません。
そのためにも、貿易取引で取り扱う商品についての豊富な知識を習得することが重要なのです。
国際市場知識を持って最適な販売戦略を構築
次に、国際市場知識を身に着けるです。
たとえば、日本人はよく欧州と米国を「欧米」と1つの単語で表現しますが、貿易取引を行う際にはこの2つはまったく異なる市場です。
欧州はいまでも階級的な閉鎖社会であり、伝統を重んじる面があります。そのため、たとえば輸出品の販売を行う際にも、性能的には優れている商品でも、消費者の信頼を築くまでに長い時間がかかったりします。
一方の米国は多民族国家で、厳しい競争原理に貫かれたアメリカン・ドリームの国です。
市場においても、どこの国の商品だろうと、優れた国際競争力のあるものは素直に評価され、受け容れられます。
このように、市場ごとに異なる特性があるため、それぞれを熟知し、各市場に合わせた販売戦略や取引戦略を練らなければならないのです。
輸出にしろ輸入にしろ、これから自社で貿易取引を行おうとする経営者や現場の担当者の皆さんは、この3分野の知識を身に付けることを念頭に置いてください。
今後の有望市場はどこか?
国際市場知識の1つとして、現在の貿易を取り巻く状況と、今後の有望市場について見ておきましょう。
金融危機と巨大な経済圏の形成
2008年に起こったサブプライム・ローン問題の発覚、およびリー マン・ブラザーズ社の倒産(リーマン・ショック)などの金融危機の影響は、米国のみならず欧州・アジアにも拡がり、日本やBRIC’S(ブラジル・ロシア・インド・中国)をはじめとする新興 諸国の経済にも大きな影響を与えました。
前る「100年に1度」とも言われたこの金融危機は、世界の貿易取引にも容赦なく悪影響を与え、日本から海外への自動車・工作機械等の輸出も一時的に大きく減少することになりました。
この金融危機を経験した世界が、どう変わって いくかを貿易の視点から予想すると、複数の国家が地域ごとに経済圏を作ってまとまり、自由な貿易が可能な巨大な経済圏を形成していこうとする流れが容易に見て取れます。
たとえば、ヨーロッパでは EU(欧州連合)各国が、北米では NAFTA(北米自由貿易協定)の構成国である米国・カナダ・メキシ コが経済的な結び付きをより深めていますし、アジアでも日本・韓 国・台湾・中国および東南アジアの各国が、互いに自由貿易協定等を締結しながら、1つの巨大な経済圏の形成を模索しています。
日本の貿易取引国は多様化の方向へ
こうした経済圏巨大化の流れを受けて、日本政府もすでに、経済連携協定(Economic Partnership Agreement:EPA)をシンガポー ル・インドネシア・タイ・マレーシア等の東南アジア諸国や、メキ シコ・チリの南米諸国、そしてスイスと締結し、今後さらに中近東・ 湾岸地域の諸国と締結する方向で動いています。
こうした動きは、これまで米国や中国など特定の国に片寄る傾向の大きかった日本の貿易相手国が、これからは分散し、多様化することをも意味するでしょう。
安い人件費を狙って、“世界の工場”としてこれまで日本企業が利用し、日本の一大輸入相手国となってきた中国も、すでに経済発展が進んで購買力を持つ層が増えており、今後は中間層・富裕層向けに日本からの輸出が増えていくはずです。
また、EPAを締結している東南アジア各国の多様な自然産品を輸入したり、EPA締結国であるメキシコをとおしてブラジルをはじめとする新興南米諸国の市場を狙ったり、今後 EPAの締結が進むはずの中近東やインドの中間層・富裕層向けにも、日本企業が活躍する余地は大きく残されています。
不況や経済危機というのは、いままでの時代とは遠いままでの時代とは違った新しい時代の到来を宣言するシグナルでもあります。
こうした新しい経済の潮流にうまく乗り、商機を見つけることが、貿易取引で中小企業が成功する秘訣だと言えるでしょう。
今後の有望市場の筆頭は、やはり中国
さてそれでは、日本企業としていま注目すべき特定の国や地域についてもざっと見ていきましょう。
今後の有望市場の筆頭として考えられるのは、やはり中国です。
すでに述べたように、中国では急速な経済発展が進み、13億人の人口を持つ巨大な市場の形成が完了しました。
また、人件費が高騰する傾向にあるとは言え、いまだ大きな(過剰なほどの)生産力を持つ“世界の工場”であり続けています。今後の貿易取引を考えるうえで、中国を無視することは決してできません。
ただし、中国を日本や米国、欧州などの民主主義の国と同じに考えてはいけません。
中国の政治体制はあくまで共産主義であり、易取引を行ううえでも注意が必要です。
ただ、共産主義と言っても、中国は強権独裁国家の北朝鮮とは違います。むしろ、中国の本質は官僚行政国家であり、資本主義経済を広く受け容れています。
取引にあたって注意は必要ですが、商売のパートナーとすることは不可能ではありません。
2008年以降の金融危機でも、製造量や輸出量は減ったものの、機械工業などの重要産業に対しては中国政府がスピーディーな財政出動を行い、落ち込む需要の下支えをしっかり行って被害を小さく抑えました。
日本や米国などの民主主義諸国で、世論の反感などから財政出動に時間がかかったのに比べて、むしろ官僚主義・独裁的な中国のほうが迅速な対応ができたのは1つの皮肉でしょう。
また中国は、豊富な外貨準備高を活用して、米国や欧州企業のM&A、つまり買収もしたたかに進めています。
これら中国の経済発展においては、都市建設に顕著に見られるように、国益が人民の生活よりも優先される点を理解しておいたほうがいいでしょう。
住民の住居を半強制的に撤去して工場用地を整備し、超高層ビルの摩天楼を短期間に建築することができるのも、よい意味での中央集権、悪い意味での人民の権利の軽視があるからこ そです。
ましてや外国企業の利益など、国益の前には「無理がとおれば道理が引っ込む」状況にあることを理解しておく必要があります。
ただ、現実に中国はこの方法で産業育成を行い、見事な高度経済成長を遂げました。
日本企業としては、今後もこの異質で巨大な経済国家と、うまく付き合って利益を出していかなければなりません。
中国でも今後は、環境対応機器や太陽電池などのクリーン・エネルギー系の産業が拡大し、そこに日本企業の大きなビジネス・チャンスがあると見込んでいます。
ASEAN諸国との貿易取引は急拡大
現在、鼻が利く貿易家がこぞって注目している市場はASEAN(東南アジア諸国連合)です。
すでに日本企業の輸入取引の中心は、対中国から対ASEANへと急速にシフトし始めています。
これから貿易取引、特に輸入取引を始めるなら、ASEAN諸国を強く意識する必要があるでしょう。なかでも特に注目したい国は、シンガポールとベトナムです。
■シンガポール
シンガポールは、面積約700平方キロメートルしかなく、人口は約460万人程度の小国です。
しかし、国家の将来戦略として、
1.積極的な資金助成を通じたR&D(研究開発)拠点の形成
2.先端産業分野を支える人材の育成
3.外国企業の投資誘致
4.地場産業やベンチャー企業の支援などを通じた産業クラスターの形成
などに精力的に取り組んでおり、ASEAN経済のハブ的な地位を確保しています。
また、巨額の外貨準備の資産運用を行うシンガポール投資公社(GIC)は、世界の金融界のキープレイヤーの1つとなっています。
ASEAN諸国のなかでも空港や湾港の設備が充実し、日本よりも進んだ物流支援サービスも整備されています。
日本企業にとっては、新天地であるインドや中近東への玄関口となるはずです。前述したとおり、日本とのEPAもすでに締結済みです。
実際、シンガポールに資金を運用するホールディング・カンパニ (持株会社)を設立し、そこを拠点にASEAN 諸国やインド、西アジア諸国、中近東などへの出張販売員を駐在させる日本企業も多数存在しています。
小国でありながら、ASEANやその他のアジア諸国との貿易取引を行う際には、決して無視できない国なのです。
■ベトナム
輸入取引・輸出取引ともに、ベトナムは今後の日本の主要な取引相手国となる可能性を秘めています。
国土の面積は約33万平方キロメートルとほぼ日本と同じであり、人口は約8,500万人。狭い国土に多くの人口が密集して住んでおり、中国と違って貧富の差が比較的小さく、現在も中間層・富裕層の人口が増えているのが特徴です。
実際に現地を訪れて小さな町の居住区を歩くと、各家庭の1階で八百屋・肉屋・雑貨販売店などが次々と開店し、いままさに商店街が形成されている様子を見ることができます。
ちょうど日本の昭和30~40年代の高度経済成長期に似た雰囲気が溢れているのです。
「政治体制は共産主義ですが、資本主義経済を受け容れており、その辺りは中国と似ています。
ただ、国の規模が小さいので、外国企業に対して強権的な政策を採ることはあまりありません。
ベトナムでは、間違いなくこれから人々の収入が増加します。貿易取引を行う日本企業としては、豊かになるベトナム人を相手に、積極的にビジネス・チャンスを掴みにいきたいものです。
その一方で、すでに人件費が高騰している中国に代わる日系企業の生産基地として、輸入取引でも当面は大きな存在感を維持し続けるでしょう。
新天地インド
今後の有望市場としては、インドも忘れるわけにはいきません。インドでも、金融危機によって経済成長率が鈍化しましたが、受けたダメージは比較的軽微でした。
一時的なショックのあとは経済の拡大も再開し、中間所得層が順調に増加しています。
中国に並ぶほどの巨大な人口と国土を持ち、消費市場としての潜在力も抜群です。
具体的には、経済成長にともなって、車輌や家電などの生活に密着した贅沢品に対する需要が、今後一気に大きくなるでしょう。
道路や鉄道など、国内の経済インフラの整備も進んでおり、日本の太平洋産業ベルトをモデルとする総合インフラ開発プロジェクト、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想 (DMIC)には、高速道路や 貨物鉄道、電力、港湾、物流基地開発などの分野で多くの日本企業も参加しています。
国土の開発にはまだ手が着いたばかりであり、インフラ開発の余地が非常に大きいため、日本企業にとっては建築資材調達等の分野で商機がたくさんあるはずです。また、インフラが整えば、その分 経済成長も加速されるでしょう。
ちなみに、インドは英国的な契約社会・訴訟社会という側面も持っています。ビジネスでの浪速節的であいまいな対応は、まったくと言っていいほど通用しないことも知っておきましょう。