貿易業務の量が増えてくると、自ずと様々なクレームも増えてきます。
クレームの種類とそれぞれのケースでの処理方法をご紹介しますので、安全かつスムーズな貿易取引を進めるための参考にされてください。
目次
貿易取引での「クレーム」は 4種類ある
国内取引での「クレーム」とは意味が違う
貿易取引の過程で起こるさまざまなトラブルに関して、金銭をとも なう損害賠償請求などをすること、あるいはされることを、貿易実務では「クレーム(Claim)」と呼びます。
通常の国内取引では、「クレーム」という単語は主に「(消費者や取引相手からの)苦情の申立て」の意味で使われていますが、貿易取引の場合は意味が異なる点に注意してください。
クレームの種類とそれぞれの対処法を理解することが大切
貿易取引でのクレームは、問題が起こった原因に応じて、主に以下の4種類に分類できます。
1 運送クレーム
荷物の破損・個数不足・不着など、明らかに船会社等に責任がある場合のクレーム
2 保険クレーム
航海中の共同海損や原因不明の貨物喪失など、船会社等に責任を求めることができない場合のクレーム。 または、運送クレームのケースで、船会社等にクレームしたものの免責主張された場合
3 貿易クレーム
商品違いや契約品質の未達、梱包不良など、貿易取引の相手方の責任に起因する場合
4法務クレーム 輸出国や輸入国の法律・規則等を原因とするクレーム
国内での商取引と同じく、こうしたクレームは貿易取引の業務量が増えれば、不可避的に発生してきます。
しかし、避けることができないクレームに対して、その種類に応じた的確で迅速な対応をとれば、クレームはむしろ、取引相手先からの自社への信頼を築くための一助ともなります。
その意識を忘れず、4種類のクレームへの理解を深め、ケースごとの対処方法をマスターしておくことが大切です。
また同時に、それぞれの種類のクレームが起きないように、事前に自社で対応できる部分は可能な限り対応し、クレームが発生する確率を最低限に抑えられるよう、努力することも重要です。
「運送クレーム」はほとんど の場合、直接責任を問えない
運送契約締結の段階で、運送会社の免責を認めている
梱包の不備など荷送人の責任ではない場合の、船積みや荷卸し等の過程での貨物の損害、あるいは運送途中や保管期間中の貨物の滅失、不着などは、一般的には運送を請け負った船会社や航空会社に責任があると考えられます。
こうした責任に関して、損害賠償等を運送会社に求めるのが運送クレームです。
しかし、船会社や航空会社に貨物の運送を依頼する際、貿易当事者は船会社や航空会社となんらかの運送契約を結ぶのですが、この契約の条項には必ず、これらの運送クレームに関して”運送会社の免責”を認める条項が入っています。
この免責条項を認めない限り、運送会社は運送を引き受けませんから、実務では運送トラブルの責任を直接船会社や航空会社に求めることは多くありません。
もし実際に船会社等にクレームしたとしても、運送会社側は契約条項に基づいて免責を主張するでしょう。
そこで、こうした種類の損害に対しては、実際には貨物海上保険などの損害保険で対応することになります。つまり「保険クレーム」として扱うことが一般的です。
保険クレームを実施する方法を知る
船会社の免責等によって運送クレームの多くは保険クレームとして処理されます。また、保険クレームには、運送会社の責任ではない運送中の事故、つまり共同海損や原因不明の貨物の損害・滅失などの場合の損害賠償請求等も含まれます。
これらの問題が発生した場合に、輸出者・輸入者はどのように行動したらいいか。また、問題の発生に備えてどのような準備をしておくべきか、詳しく見ていきましょう。
荷卸し段階での検品が必須
まず、荷主が必ず行うべきこととして、輸入港での商品荷卸しの際、荷主の代理人に必ず「検品」させることが挙げられます。
この検品の際、商品に破損など異状が発見された場合は、船会社や航空会社に対して、以下の書類にリマーク(Remark:問題発生の表記)を記入するよう要求します。
(Devanning Report)
・コンテナ船・FCLの場合や在来船の場合:ボート・ノート (Boat Note)(「貨物受渡書」とも言います)
・航空輸送の場合:デバンニング・レポートや入庫報告書
そして、荷主は速やかに保険会社やその代理店に損害発生の通知を行い、保険クレームを申し立てる意志を伝えます。
また、船会社や航空会社に対しては、損害内容を通知する「事故通知 (Claim Note)」を提出します。
この事故通知の提出が遅れると、保険による補償を受けられないことがありますので、定められた期間までに速やかに提出してください(船会社に対する運送クレームの場合は通常3日以内、航空会社の場合は通常7日あるいは14日以内)。
第3者鑑定機関による鑑定を行うことが一般的
その後、荷主と保険会社(あるいはその代理店)との間で話し合いが行われ、第3者鑑定機関 (Surveyor) による鑑定を行うかどうかが決められます(第3者鑑定機関は、単に「サーベイヤー」と呼ぶことも少なくありません)。
ただし、サーベイヤーの起用には費用がかかりますから、常に利用されるわけではありません。原因や損害内容が明白である、あるいは損害額が少額の場合などには、起用されないこともあります。
サーベイヤーとしては、英国のロイズ (Lloyd’s) がもっとも有名で、世界的な信用力があります。日本では、日本海事検定協会や新日本検定協会などがあります。
もし、サーベイヤーを起用した場合には、サーベイヤーは正式な報告書であるサーベイ・レポート (Survey Report)を作成します。
サーベイ・レポートでは、貨物やその引き渡しの明細、損害の原因と程度、処理方法と付帯費用の明細などが詳細に述べられます。
そして、第3者鑑定機関からサーベイ・レポートが提出されたら、必要な船積書類を揃えて「本クレーム」を行います。これも、保険会社やその代理店経由で行います。
「貿易クレーム」の要因と対処方法
・貿易クレームの種類を把握する
「貿易クレーム」とは、取引相手先の責任で発生した損害に対し、賠償等を求めること、あるいは求められることですが、その原因は大き く次の3種類に分類できます。
1、商品の品質・数量等の違い
色・柄・寸法などが契約した内容と異なる場合、あるいは商品そのものが約束した商品と異なる場合(発送商品の間違い)、また、 品質不良や数量不足など、商品の状態に関わる問題が起きたときに は、貿易クレームとなります。
2、商品の受け渡しに関する問題
船積みや納品の遅延など、運送会社ではなく発送者の責任によっ て商品の受け渡しが遅延した場合には、納期の遅れにつながり貿易クレームとなります。
3、代金回収や注文内容変更に関する問題
輸入者からの商品代金の不払いや、正式注文後の突然の注文キャ ンセルなども、当然ながら貿易クレームとなります。
ひとくちに貿易クレームと言っても、その原因は上記のようにさまざまであり、それぞれの原因に応じた予防・対処策が求められます。
商品の品質・数量に関するクレームにどう対応するか
<品質不良のケース>
特に輸入の場合は、クレームの多くは外国企業の製造した商品の品質不良に関するものです。こうしたクレームを回避するためには、 事前に次のような予防策をとることがなにより重要です。
a)クレーム発生時の対処方法に関する事前合意
相手方と契約をする際に、あらかじめ品質不良商品の発生があった場合の不良品即時交換や修理代金弁償などの具体的対処方法を双方で合意しておき、そうした内容を契約文書に条項として含ませて契約を締結することです。
品質に関する判断基準として、見本品(サンプル)や図面などの客観的な証拠を手許に保管しておくことも大切です。
b)品質についての認識をしっかり一致させる
商品品質については、商慣習の違いから外国企業との間で認識の不一致が発生することがあります。
あらかじめ相手方との間で、どの程度から品質不良とするのか、数値ベースで認識を一致させるようしっかりと話し合うことが必要です。
なお、当初から品質規格基準書を含む契約書を締結すると、比 較的安全だと言えます。
c)生産途中の品質をチェックする
時間や費用に関して許容できるようであれば、相手方への注文発送後、相手方の工場等に直接出張し、生産中の商品の品質レベ ルを事前にチェックする方法がもっとも確実です。
品質に関する問題発生を絶対に許容できない個別生産の高額商品などでは、こうした方法を検討することも必要でしょう。
d)荷卸しした商品の迅速な検品
商品が輸入港に到着し、荷卸しされたら、できるだけ早急に検品を行うようにしておき、問題があってもなくても、速やかにその結果を相手に通知する体制を整備しておくことも大切です。
こうした事前の対応をしておけば、万一、品質に関するクレームが発生したときにも、その内容を相手方に伝えるとともに、契約書に従って対処を進めるだけで問題を解決することができるはずです。
<数量不足のケース>
輸出・輸入した商品の数量が、契約した数量に不足していると貿易クレームが発生します。
この数量不足のケースでは、コンテナの封印(シール)に異常があるかどうかによって対応が変わります。
コンテナの封印に異常がある場合、数量不足の原因として盗難が強く示唆されます。そこでこの場合には、保険クレームとして保険会社へ保険金の求償をして解決します。
これに対して、コンテナの封印に問題がない場合には、商品をバンニングした段階ですでに数量が不足していた可能性が高くなります。そこでこの場合には、数量不足を輸出者の責任として、貿易クレームによって処理します。
具体的には、不足分の商品を事後に相手方に発送したり、代金減額をしたりして対処することが一般的です。
なお、貨物の盗難を防ぐ予防策として、包装・荷印の記載を、内容物がすぐにわかる商品名ではなく、記号や暗号で行うこともあります。
商品の受け渡しに関するクレームにどう対応するか
<輸出の場合>
輸出の場合、相手方からの急な仕様変更依頼等により商品の生産に遅延が発生したり、相手方の信用状開設や支払いが遅延したことにより船積みが遅延したりする場合があります。
この場合は、相手方に責任のある船積みの遅延=納期の遅延です から、納期が遅れる旨を相手方に事前に通知してから、輸出者側での船積みを実行することが大切です。
また、船や航空機の輸送スペースの確保に関しても常に情報収集しておき、輸出者側の責任で船積みが遅れないように注意することも必要です。
好景気の際には、船・航空機の輸送スペースは不足しやすくなる ので、十分な時間的余裕を見てブッキングを進めることが必要となります。逆に不景気の際には、それまでは就航していた定期船が減便されたりすることもありますから、事前に船会社やフォワーダー と情報交換しておくことが大切です。
そして輸出者は、相手国側の祝祭日・記念日・国政選挙の日程などのカレンダーのほか、文化・慣習・政治・経済等に常に敏感にな り、相手国での湾港施設や行政機関の非営業日、また、万一のスト ライキや内乱などの危険性についても、常に情報収集するように心がけましょう。
<輸入の場合>
輸入の場合、納期の遅延について、原因が明らかに相手方の外国企業にあるケースでは、相手方に対する損害賠償を請求することに なります。
契約を締結する段階で、納期の遅延に備えたペナルティ(罰金)をあらかじめ設定しておくと、こうしたクレームの処理もスムーズに進みます。また、次回の契約の際に、前回の契約での遅延に対するペナルティを課す場合もあります。
なお、納期遅延の原因が相手方にないケースでは、原則として保険クレームの対象となり、保険会社からの保険金で損害をカバーします。
ただし、貨物海上保険等の損害保険には、通常は免責条項が定め られているので注意が必要です。実務に関係する損害保険の主な免責対象は、次のようなものです。
b. 輸出梱包の不完全や積み付けの不良
c. 不可抗力(たとえば台風や地震等)による運送自体の遅延
d. 貿易当事者(輸出者・輸入者)の故意や過失による損害。例えば、輸入者の商品取扱に不備がある等
e. 保険の種類としてカバーできない原因。たとえば、戦争や内乱を原因とした貨物損害については、別途特約を追加して担保する必要があります。
外国の輸出者側に責任のない遅延の原因が、損害保険のこれらの免責対象に含まれる場合には、保険クレームでも損害を補填することができません。保険クレームの免責対象を事前に知ったうえで、取引を行うようにしましょう。
代金回収や注文内容変更に関するクレームにどう対応するか
<代金回収トラブルのケース>
輸出の際、相手方からの代金の支払いが、契約したとおりの方法や期日で行われない場合があります。輸出者としては、もっとも避けたいトラブルです。
このような場合には、相手方に対して書面やEメール等によって支払遅延を通知 するとともに、場合によっては国際電話や出張訪問を行って、直接支払いを催促します。
なお、相手方に通知・催促する際に大事なことは、支払期限とその金額を明確にすることです。
このようなトラブルを未然に防ぐためには、契約の前段階で、相手先の信用調査をしっかりと行っておくことが非常に重要なことは言うまでもありません。
<注文変更に関するトラブルのケース>
相手方からの注文を受領し、すでに商品の生産を済ませたあとで、相手側の一方的な都合(たとえば、輸入地での市況の変化や輸入者の財務状況の変化など)によって、直前になって注文のキャンセルが行われることがあります。こうした状況は、輸出者にとっては対応に大変苦慮するものです。まず、相手方の一方的な注文キャンセルについては、契約不履行責任を厳しく追及することが基本です。
上記の代金回収トラブルのケースと同じように、書面やEメー ル等で契約履行を強く催促するとともに、場合によっては国際電話や出張訪問をして、直接相手方のところへ交渉に出向きましょう。
ただし、注文内容変更や注文キャンセルの理由が、相手方の財務状況の悪化を原因とする場合などは、時間をかけて契約履行を迫ったり、船積みを強行したりしても、結局は代金回収の問題を引き起こすだけに終わることも少なくありません。
このような場合は、いつまでもそうした会社に付き合わず、早期にほかのバイヤーを見つけて転売することをめざすほうが得策でしょう。
商品の性質にもよりますが、自社で在庫を抱え込むより、多少値引きしてでも生産した商品を売り切るほうが望ましいケースのほうが多いはずです。
最近は「法務クレーム」が増えている
最近は輸出入ともに、関税法関連のみならず、知的財産権や製造物責任に関連する法律によるトラブルが多くなっています。こうした各国の法的規制に起因するクレームを、法務クレームと言います。
輸入でのポイントは「輸入許可」がとれるかどうか
日本の輸入者が外国から商品を輸入するには、税関長から輸入許可を取得しなければなりませんが、関税法関連のみならず、その他の法令により輸入が規制される場合があります。輸入不許可となる主なケースを理解しておきましょう。
2、他法令(たとえば、薬事法や検疫関連法規に抵触する場合など)に基づく許可・承認等がない場合
3、偽った原産地表示がされている場合
4、関税等が納付されない場合など
2、他法令 に基づく許可・承認等がない場合
上記のうち、2の関税法関連以外の法令の具体例としては、次のようなものがあります。
a. 薬事法等の国内法規
日本国内において、化粧品等の化学製品の販売は、薬事法により国が認めた化学成分のみ販売が認められています。
また、食器や子供用のおもちゃの輸入では、法令により厚生労働省検疫所への食品等輸入届出書の提出が求められています。
このように、関税法関連とは別の国内法規による規制は、輸入者側であらかじめ調べたうえで輸入を実行しないと、輸入港における商品の引取段階で、引き取りができないとか、追加の検査費用や時間が必要になるなどのトラブルを生じることがあります。
b. 知的財産権に関する国内法規と税関での対応
また、特許権・実用新案権・商標権・意匠権・著作権等の知的財産権を侵害する貨物の輸入については、税関が効果的に輸入を差し止めるために、権利者等が税関長に、その権利内容や侵害事実の証拠の提出を行う輸入差止申立て制度があります。
この場合も、輸入者の側で、事前に輸入する商品が知的財産権を侵害していないか、確認しておく必要があります。
c. 製造物責任(PL)に関する法規
外国商品を輸入販売する際に、その商品の機能について危険を回避する指示や警告の表示をしなければならないこと等を怠り、万が一事故が 発生した場合には、日本国内においては輸入者が、その商品の製造物責任を負うことになります。
特に輸入者は、外国企業の作成した外国語の取扱説明書の翻訳にあたって、誤訳や不適切な表現がないように注意して日本語版を作成しなければなりません。誤訳などがあった場合には、外国の商品製造者等に求償できなくなる恐れがあるので要注意です。
3、偽った原産地表示がされている場合
また、誤った原産地表示については、偽った原産地表示や誤認を生じさせる表示があると、輸入が許可されないことを関税法が明確に規定しています。
原産地表示は、不当景品類及び不当表示防止法や、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(通称:JAS法)で詳細を規定されていますので、これらの法律に則った表示が求められます。
輸出では、相手国側の法令を調査しておくこと
輸出の際の法務クレームは、輸入国の法令についての調査が不足していたことによって引き起こされるのが一般的です。
また、自社商品の知的財産権については、国際市場で販売する前に、輸出先国での特許申請等も必要になります。
<知的財産権と模倣品対策>
日本企業が知的生産物を海外市場で販売する際には、当然ながら 特許権・商標権等の知的財産権を対象国で事前に申請し、権利取得 しておくことが重要です。
特に、アジア諸国では模倣品がすぐに出現しますから、法的に万全な体制を輸出者側で整えておかなければなりません。
<海外製造物責任訴訟(PL訴訟)>
米国においては、1965年の「不法行為法リステートメント第402条A」(判例法)によって、製造物責任法(通称:PL法)が成立し、現在では全米50州すべてで法律として確立しています。
米国の PL法の特徴は、被害者の救済に重点を置いているため、訴追者は以下の3点のみを立証できれば、製造業者等の不法行為責任として故意過失の立証が不要となっていることです。
2.商品欠陥や表示上の欠陥等の存在
3.損害と欠陥の因果関係
これは、被害者が訴えを起こしやすいことを示しており、逆に企業側にとっては、過失や故意がなくても損害賠償責任を負う可能性がある厳しい法体系です。
また、米国で提訴されると、日本の民事訴訟のシステムにはないディスカバリ制度(本案前の証拠開示義務制度)によって、裁判所や原告に対する証拠開示が必要となることがありますが、商品製造のノウハウや図面等の開示が要求されることもあり、これも輸出企業にとっては難しい問題をはらんでいます(企業機密の流出)。
そしてさらに、米国の民事訴訟では、日本では認められない「懲罰的賠償金(Punitive Damages)」も存在しています。
これらの状況を鑑みるに、特に米国で日本商品を販売する際には、 海外PL保険の付保はもちろん、専門家のアドバイスによる英文の取扱説明書の作成など、格別な配慮が必要であると言わざるをえま せん。
<その他の外国法規>
このほかにも、輸出先国によって、輸入品にはさまざまな法的規制がかけられています。
これらの法規を、すべて輸出者が自力で調べるのは現実的ではありません。海外の対象国における貿易関連法規やその他の法規につ いては、事前にバイヤー等を通じてしっかりと調査しておくほか、専門のコンサルタントなどの利用を考えるといいでしょう。
クレーム処理の法的手段には何があるか?
次に、クレームの処理をする法的手段に付いて紐解いていきましょう。
契約段階で事前の取り決めをしておくことが基本
貿易クレームに関しては、基本的には取引に入る前の契約書を締結する段階で、クレームが発生した場合を想定して当事者間で事前の取 り決めをしておくべきです。
事前の取り決めがあれば、クレームの際にもその取り決めに従って問題を処理することが可能です。クレームの原因をできるだけ早く分析し、関係者の応援を得て迅速に処理するのです。
なお、通常のクレームの処理では、次の2つが重要であることを覚えておきましょう。
1.相手に対する迅速な通知
2.相手との直接交渉(商品の交換や減額請求など)
法的措置による解決は最終手段
しかし、すべてのクレームを事前に想定することはできません し、相手側が事前の取り決めどおりに対応してくれないこともあります。
このような場合には、最終手段として、問題の解決をするた めに法的措置をとることがあります。
なお、法的措置(訴訟や仲裁等)に頼ると、時間とコスト、さらには労力がかかるので、まずは当事者間の話し合いによる解決、つまり和解(Compromise)の成立に全力を注ぐことが大切なのは言うまでもありません。
<仲裁による解決>
国際取引の法的な係争解決手段としては、民間による法的解決方法である仲裁(Arbitration) がよく使われます。
仲裁は、貿易当事者双方が選んだ第3者の仲裁人や仲裁機関に、トラブルの解決策である仲裁裁定を下してもらう方法です。
仲裁は、仲裁に関する各種の国際条約(たとえば、ニューヨーク条約等)に基づいて行われるため、これらの条約締結国間で有効になります。また、仲裁の過程は非公開であり、基本的には1回のみの審理で裁定が下されます。
この仲裁裁定には、上記の国際条約により裁判所の確定判決と同一の効力が認められているので、一定の条件のもとで強制執行を行うことも可能となります。つまり、仲裁裁定には 法的な強制力があるということです。この点が、国際的な紛争解決手段として仲裁がよく利用される要因となっています。
契約書作成の段階で、紛争解決手段として仲裁を利用することを明記しておけば、いざというときの手続きをスムーズに行うこともできるでしょう。具体的には、仲裁地・仲裁機関・仲裁規則・仲裁人の数や方法等を、双方合意のうえで契約書にあらかじめ定めておきます。
なお、仲裁機関としては、日本には一般社団法人日本商事仲裁協会があるほか、世界の主要な国々にも仲裁協会あるいは仲裁委員会が存在しています。
<調停や訴訟による解決>
このほか、国際取引の法的な係争解決手段としては、調停(Mediation)や裁判所での訴訟(Litigation)などがあります。
調停は、当事者双方が選んだ第3者の調停人が、双方の意見を聞 きながら解決策を呈示してくれるものです。
ただし、この方法で呈示される解決策には法的な拘束力がないため、その解決策に応じるかどうかは双方の判断に委ねられているところが弱点です。
また、もっとも強硬な法的手段として、自国あるいは相手国の裁判所で訴訟を起こす方法もあります。
しかし、この方法はコストや労力が非常にかかる割には、両国の裁判権が相手国にまでは及ばないという根本的な問題があり、たとえ勝訴したとしても必ずしも解決には結び付かない場合があるので、注意が必要です。
最後に
いかがでしたでしょうか?輸出者、輸入者どちらも知っておくべき貿易クレームの種類や具体的な対策・処理方法をご紹介しました。スムーズで健全な取引ができるよう契約書でしっかり条件を明記しておきましょう。