外国から到着した貨物を国内に引き取るためには、輸入手続きや関税等の納税をしなければいけません。
輸入手続きは、貨物と書類の流れが複雑で、通関や他法令の手続きをするためには、専門的な知識と経験が必要です。
この記事では、これから輸入手続きをされる方のために、輸入手続きの流れや必要書類などを分かりやすく解説していきます。
輸入手続きの全体像を把握することができますので、是非最後までご覧ください。
目次
輸入手続きの流れ
輸入手続きの基本的な流れは、船便も航空便も同じです。
船(航空機)が港(空港)に到着すると、貨物は「保税地域」に搬入されます。
その後、税関に対して「輸入(納税)申告」を行い、関税・消費税を納税し、必要な審査・検査を受けたあとに貨物を輸入することができます。
輸入するに当たり、関税関係法令以外の法律(他法令)で輸入が制限されている場合には、輸入申告前に許可・承認を受ける必要があります。
例えば、食品を輸入する場合には、厚生労働省管轄の検疫所に「食品等輸入届出」を行う必要があります。
輸入する食品が「どのような原材料や添加物が使用されていて、どのような製造工程を経ているか」など、必要事項の届け出を行い、承認を受ける必要があります。
その後、輸入(納税)申告が行われ、輸入許可を受けると貨物を国内に引き取ることができるのです。
ここからは、輸入手続きの流れを、海上貨物・航空貨物と分けて詳しくご紹介しましょう。
海上貨物の輸入手続き
船が港に到着すると、船会社は「Arraibal Notice(貨物到着通知)(略称:A/N)」を輸入者に発行します。このA/Nには、船積港・船卸港・船名・到着日・船チャージ額などが記載されています。
このA/Nに加えて、「I/V(Invoice/インボイス/仕入書)」「P/L(Packing List/パッキングリスト/梱包明細書)」「B/L(Bill of lading/船荷証券)」を用意することで、通関手続きに入ることができます。
必要書類が整ったら、フォワーダーに依頼することで、通関手続きが開始されます。
(個人や企業が独自で輸入手続きをすることも可能ですが、通関手続きや他法令手続きをするには専門的な知識と設備が必要ですので、フォワーダーや通関業者に輸入手続きを依頼するのが一般的となっています。)
輸入申告の概要
輸入(納税)申告は、NACCS(ナックス)というシステムで行われます。NACCSは「輸出入・港湾関連情報処理システム」の略称です。
このシステムは、税関・船会社・通関業者・厚生労働省(関係省庁)・金融機関などの関係機関がすべて繋がっており、各種申告や手続き等はこのNACCSによって処理されます。
NACCSで輸入(納税)申告をすることで、システムが審査の「区分判定」を行います。
区分は1~3まであり、内容は以下の通りです。
区分1:即時輸入許可
区分2:書類審査
区分3:書類審査・貨物検査
申告するとすぐに区分が表示されます。区分1なら「即時輸入許可」になり、関税等を収めることで、すぐに貨物を引き取ることができます。
区分2の場合、「書類審査」となり、NACCSを利用して税関に通関書類をPDFデータで送ります。区分1とは違い、書類内容を税関職員がチェックしますので、即時貨物を引き取ることはできません。
適宜、税関職員は輸入申告した通関業者に電話連絡を行い、貨物内容や申告内容についての質問を行います。その後、問題なければ輸入許可書が発行されます。
区分3の場合には「貨物検査」も必要になります。
貨物検査は「見本持出し検査」や「X線検査」などが行われます。
「見本持出し検査」は、税関が指定した貨物の一部を保税地域から一時引取し、税関に持ち込みます。通関書類と貨物の内容に相違がなく、正しく輸入申告されていることが確認されたら検査は終了となり、貨物は保税地域に戻されます。
「X線検査」の場合には、X線検査場に貨物の全量を持ち込み、X線を通して貨物検査が行われます。
※貨物がコンテナ1本分(FCL)の場合には、コンテナをX線検査場まで持ち込みます。対して、貨物がコンテナ1本分に満たない貨物(LCL)の場合には、貨物の一部又は全量を検査場に持ち込んで検査が行われます。
無事、検査が終了し、関税等を納税することで「輸入許可」となります。
貨物引取前に船会社への支払いを
輸入許可となったからといって、すぐに貨物を引き取れる訳ではありません。
A/N(アライバルノーティス)に、輸入者が支払う料金(船チャージ)が記載されている場合には、その支払が済んでいないと貨物は引き取ることができません。
船チャージを支払うことで、船会社からD/O(Delivery Order/デリバリーオーダー/出荷指図書)が発行されます。
これは、貨物の引換券のような役割を持っています。
このD/Oを保税地域に持ち込むことで、貨物を無事引き取ることができるのです。
ここまでが海上貨物の輸入手続きの大まかな流れです。
海上貨物は、本船入港から輸入許可まで、おおよそ2~3日程度かかります。
書類審査や検査、他法令の許可・承認等の手続きが長引く場合は、3日以上の日数がかかる可能性もあります。
航空貨物の輸入手続き
航空貨物は、輸入を急ぐ必要がある「生鮮食品」「生花」などの輸送手段に利用されることも多く、海上貨物よりもスピーディーに輸入できる仕組みが整っています。
航空機が空港に着陸すると、すぐに積載されている貨物が下ろされます。
貨物はすぐに保税地域(貨物ターミナル)に移され、デバンニング(貨物をコンテナから出すこと)されます。その後、貨物の点検が行われます。
点検が済んだあとは、輸入者に電話等で貨物到着通知が行われます。
輸入者は、フォワーダーに通関手続きを依頼します。ここから先は海上貨物と同様の手順になります。
通関業者は、輸入(納税)申告を行い、税関で必要な審査・検査の対応を行います。
空港には、税関職員が24時間常駐していますので、万が一貨物検査になっても、基本的にその日の内に検査は終了します。
通関手続きと納税が無事完了すると、D/Oが航空会社から発行されますので、貨物を引き取ることができます。
航空貨物の空港到着から輸入許可までのおおよその所要日数は1日です。
着陸後、迅速な貨物点検と通関手続きを行う体制が出来ていますので、2日以上かかることはほとんど無いでしょう。
輸入手続きの必要書類
輸入手続きにおいて必要になる書類をご紹介しましょう。
「Invoice (I/V)」仕入書
インボイスは、輸出者が作成する書類です。「仕入書」や「送り状」と言われます。
輸入(納税)申告時に必ず必要になる書類です。輸出者からインボイスを受け取ったら以下情報が記載されているか確認しましょう。
基本的に、上記項目が全て正しく記載されていないと通関手続きが止まってしまい、迅速な貨物引き取りが出来ません。
よくある不備の事例として「貿易条件が書かれていない」「合計金額が間違っている」「仕入書番号が記載されていない」などがあります。
これらは、課税価格を決定したり、申告内容を決める重要な項目ですので、正しく記載されているか確認しましょう。
※関税の減免税を受けるために、原産地証明書を添付して輸入申告する場合には、インボイスに原産地が記載されていなければいけません。
「Packing List (P/L)」梱包明細書
パッキングリストは、貨物の梱包状況が記載されている明細書です。個数・単位・重量・容積・ケースマークなどが記載されています。
輸入申告の際、個数・単位・重量も申告する必要がありますので、パッキングリストも通関書類として重要な役割を果たします。
しかしながら、パッキングリストは必須書類ではなく、インボイスにパッキングリストの情報が記載されていれば、通関時にパッキングリストが無くても問題ありません。(運用上、インボイス兼パッキングリストとして扱われます。)
パッキングリストがある場合には、インボイスの情報と相違するところがないか確認しておきましょう。
「Bill of lading (B/L)」船荷証券
B/L(ビーエル)は、船会社が貨物を預かった事を証明する、輸出地で発行される書類です。有価証券としての効力もあり、裏書きをすることで譲渡も可能です。
B/Lは本来、原本(紙ベース)で発行され、輸入者に郵送されます。輸入者は、B/L原本を船会社に差し入れることで、貨物を引き取ることができます。
しかし、実際の運用上では「Surrendered B/L(元地回収)」(サレンダービーエル)といって、輸出地の船会社がB/L原本を回収する方法が主流になっています。
Surrendered B/L扱いにすることで、輸入者はB/L原本の到着を待つことなく、B/Lコピーで貨物を引き取ることができるのです。貨物をすばやく引き取れるため、B/Lは元地回収されるケースが多くなっています。
「Arrival Notice (A/N)」貨物到着通知
A/Nは、本船(航空機)が、港(空港)に到着した際に、船会社(航空会社)から輸入者に発行される書類です。
A/Nが発行された時点で、日本に本船が入港する日付が確定しますので、通関手続きをスタートさせることができます。
又、船会社に支払うチャージも記載されており、貨物を引き取るまでに支払う必要があります。
「Insurance Policy」保険証券
海上(航空)輸送をする際に保険をかけると保険証券が発行されます。保険証券は、輸入申告をする際に必須の書類です。
何故なら、日本の港に到着するまでの輸送について、保険をかけた場合には、保険金額を課税価格に参入する必要があるからです。
保険をかけた場合には、必ず保険証券も通関書類として通関業者に渡しましょう。
「Certificate of Origin (C/O)」原産地証明書
原産地証明書は、輸入品の原産国を証明する書類です。輸出地の商工会議所などが発行する公的な書類となります。
発展途上国の原産品の場合、「特恵関税」が適用できるため、関税は免税されますが、輸入申告の際に「特恵原産地証明書」が必要になります。輸出者に発行を依頼することで入手することができます。
原産地証明書は「原本」が必要になりますので、国際郵便で到着するまで輸入申告は出来ません。その代わり、関税が免税になりますから、輸入原価を低く抑えることができるメリットがあります。
他法令の許可書・承認証等
輸入する貨物が、他法令で規制されている場合には、関係省庁の輸入許可・承認等を受けなければいけません。
関税関係法令以外で輸入が規制されている他法令は以下の通りです。
・植物防疫法
・家畜伝染病予防法/狂犬病予防法
・薬事法
・毒物及び劇物取締法
・輸入貿易管理令(ワシントン条約・外国為替令)
・化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
・火薬類取締法
・高圧ガス保安法
・銃砲刀剣類所持等取締法
・知的財産権侵害物品の取締り etc
例えば、「食品・食器類・乳幼児のおもちゃ」などは、口に触れるものですから、食品衛生法に抵触し、原料や製造工程などを検疫所に届け出る必要があります。
化粧品や医薬品の場合は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に抵触し、厚生労働大臣から輸入承認を受ける必要があります。
届け出はNACCS等のシステムで行います。輸入する貨物によってどのような法律に抵触するか判断が難しいため、専門的な知識と深い経験が必要です。
「Delivery Order (D/O)」出荷指図書
D/Oは、船会社や航空会社から発行される「貨物引渡証」の役割を担います。輸入通関手続きが完了し、船チャージの支払いを済ませることで発行されます。
このD/Oを貨物が蔵置されている保税地域に差し入れることで、貨物引き取りが可能となります。
個人輸入の輸入手続き概要
個人輸入の輸入通関手続き概要についてご紹介します。
輸送方法を「国際宅急便」で行った場合は、自動的に宅急便会社から通関業者に通関が依頼されます。輸入者が通関手続きを行うことなく、貨物受け取りまで全て行ってくれますので安心してください。
宅急便以外の一般貨物として貨物が日本に到着すると、船会社・航空会社は貨物到着通知を輸入者に出します。
輸入者は自身で通関手続きを行うか、通関業者に依頼して輸入手続きを行うか選択することができます。
他社に依頼することで、通関手続き手数料が数千円〜1万円程度かかりますが、輸入通関手続き、他法令の許可承認手続き、配送手配など、面倒な手続きや手配を一挙に引き受けてくれます。
通関手続きは、専門的な知識を要する上に、税関や関係省庁に出向いて手続きをする必要があります。
自身で行う労力や移動コスト、要する時間を考慮すると、フォワーダーに依頼したほうが迅速かつ安全に輸入手続きを済ませることができるでしょう。
輸入手続きはフォワーダーに依頼
輸入手続きは、古くから通関業者(海貨業者)に依頼する事が一般的とされてきましたが、注意が必要です。
なぜなら通関業者は、通関手続きのみ行っている業者など、業務の範囲が狭いために、結局ご自身で港回りの手続きや、運送手配などを行わなければいけないケースもあります。
入港〜会社の倉庫納入まで「一挙に任せたい」場合には、「フォワーダー(貨物利用運送事業者)」に依頼する事を推奨します。
フォワーダーは、通関業者とのパイプはもちろんのこと、ドレージ会社や倉庫会社など、幅広く協力関係にあるため、輸入手続きを一挙に引き受けてくれます。
本船入港〜通関手続き〜港回りの手続き〜ドレージ手配〜納入までの流れで、どの業者を利用すれば一番費用を抑えられるか、最短で納入することができるか、輸送をアレンジしてくれますので、特に、輸入手続きに慣れていない企業様ほどフォワーダーに依頼すると良いでしょう。
・輸入貨物は通関手続き・納税・他法令の許可承認を済ませたあとに国内引取が可能
・必要書類を把握し、記載内容のチェックをしましょう
・輸入手続き初心者の方はフォワーダーに依頼しましょう